FGO 清姫の二次創作小説  1話

 夢を、見ていました。あれは、草木も眠る丑三つ時の夜のことでした。
 わたくしは羽織物を身に纏い、自分の吐息で手のひらを暖めながら、月光で照らされた廊下を足早で歩き始めました。

 私室から出ると、冷たい夜風がわたくしの髪と縁側から見える金木犀の枝葉をそよそよと揺らしていきました。

 わたくしはどこに向かっているのでしょうか。それは、当事者であるわたくしにも分かりませんでした。無意識で動くわたくしの足は冷えた廊下をひたひたと歩くと、とある客間の前で止まったようでした。
 その客間の前で急に理由もわからず呼吸が荒くなり、顔を赤らめ、手に汗をかくわたくし。いったい、ここに何があるのか見当もつきません。
 自分の意思と関係なく、わたくしは震える手で目の前のふすまをゆっくりと開けていきました。しかし、興奮とは裏腹に目の前に映った光景は誰もいない、寝具が綺麗に片づけられていたただの客間でした。
 何一つ変わらない平素な日常の風景。畳まれた布団が部屋の中央に置かれているだけでした。

 でも、何故でしょうか。わたくしは、その部屋を見ると、ほろりと涙を流してしまいました。
 突然の謎の涙。誰かの涙。共感できない自分の涙。誰かに捨てられたような言い難い感情が襲ってきました。
 次第に、湧き出る涙で視界がぼやけていく。今まで感じていた金木犀の匂いが無くなり、四肢の肌寒さが消え、いつしか温もりがわたくしの周りを包み込んでいきました。

 そして、わたくしの自意識も消え去り、客間で涙を流し続ける少女は暗闇に消えていきました。

 「ここは……?」
 気付くと、そこはカルデアが用意したサーヴァント用の療養室でした。白いベッドに白い部屋、あとは鉄で出来ている高度な医療用のカラクリがわたくしの側で治療をしていまいた。
 「何故、わたくしはここで寝ているのでしょう……?」
 ここに運ばれる前の一部の記憶がさっぱりと消えていた。だが、自分が何者であるかは覚えているようでした。
 生前、竜種に転生した逸話を残したわたくしはここ、人理継続保障機関フィニス・カルデアの英霊召喚システムでサーヴァントとして召喚された。
その後、人理焼却を防ぐため特異点事象を探索し、モンスターとサーヴァントと戦い、多くの修復を成し遂げてきた。

 そう、いつもわたくしが寄り添うあの方と。

 

 あの方……?


 「清姫さん、大丈夫ですか!?」
 突如、扉が開くと声を荒げてマシュさんが医療室に乗り込んできた。彼女は、大粒の涙を流しながらわたくしのことを抱擁した。
 「良かった……。本当に、良かった!」
 「いったい、何があったんですか……?あと、筋力Cの抱擁は、わたくしには少し熱すぎますわ」
 マシュさんの腕はわたくしの肋骨をミシミシと優しく締め上げていったので彼女の肩をタップし続けた。
 「あっ、すみません!」
 ハッとした様子の彼女は急いでわたくしへの抱擁を解いた。
 「でも、本当に心配したんですからね。特異点へレイシフトしている時にいきなり倒られたんですよ。一時期は、どうなることかと思いましたよ」
 「わたくしが、倒れた?」
 「はい。魔力の残存量も規定値で保たれていたのに倒れ込んでしまったんですよ。あの時は、ダ・ヴィンチちゃんもサポート班の皆さんも大慌てでした」
 「そうだったんですね。皆さんにはご迷惑をおかけしてしまいましたわ」
 「そういうことはあまり気にしては駄目ですよ。私たちは一緒に特異点を修復してきた仲間じゃないですか。それと、マスターも今こちらに向かわれてますから元気な姿を見せてあげてください」
 マスター?わたくしのマスター?
 すると、ドタバタと足音が聞こえてきた。その足音と共にあの円形状の廊下を走ってきたであろう一人の男性が医療室に入ってきた。
 「清姫の意識が戻ったって、本当!?」
 慌てた様子で現れた彼は、わたくしの姿を見て安堵した様子を見せた。
 「はい、先輩。霊基に損傷は見られず、魔力供給量も安定しています。あとは、ダ・ヴィンチちゃんの精密検査の結果次第では、近いうちに前線復帰することも可能だと思われます」
 「なるほど。ひとまずは一安心ってことかな。やれやれ、一時はどうなることかと思ったよ」
 胸を撫でおろし、額の汗を拭う彼。その姿を見てわたくしは、聞かずには要られなかった。
 「あの、マシュさん?」
 「はい、どうしました?」

 

 「そちらの男性は、どちら様でしょうか?」